2012年トカラ列島 平島釣行記
作gantiss
6月11日から10日間の休暇を取りトカラ列島平島に単独釣行した。
初めての本格遠征にも関わらず、幸運に恵まれ、妄想が現実となる釣果を得た。
台風接近で、実釣が3日間となってしまったが十分満足できた遠征となった。
釣行計画
今年、3月いっぱいで自営業のフルタイム勤務をやめ、趣味に軸足をおいた生活実現の第一歩として今回の釣行を計画した。
海で夜釣りの経験がないので、まずは堤防から夜釣りの練習に、うつぼ伍長さん作、トカラ列島遠征記にある平島堤防への釣行を決めた。
うつぼ伍長さんに直接メール連絡で、最新のトカラ列島釣り情報をいろいろお聞きした結果、5月中旬から6月下旬までのトビ魚の大群が港に入る時期がベストとのことで、新月の大潮に合わせた今回の日程を計画した。
釣行準備
大物釣り3年目の初心者である私は、大鵬さん作の遠征の装備、頑張照蔵さん作の遠征装備リストを参考にさせていただき、詳細なチェックシートを作成して妄想を膨らませた。
タックルは、がまくえインパルス60号 + Penn9/0Wハンドルドラッグ + PE30号400m。
仕掛けは管付ムロアジ30号、ダイニーマノット100号の根付、ナイロンハリス80号をメインに泳がせ、フカセ釣り用を合計30本ほど準備した。
堤防にはアンカーが打てないので、スタンディングでしかできない。 大鵬さんにPenn9/0Wハンドルドラッグでスタンディングは危険とのアドバイスをいただき、ハンドルドラッグの設定を糸巻きフルの状態でテンションをMax約18kgに設定した。 この設定では、大物に糸を全て引き出されるリスクはあるが、最悪、竿を寝かせば、持ちこたえられると考えた。
トカラ列島平島
東シナ海、トカラ列島の中央部に位置し、面積約2km2、人口約70人、商店はなく、民宿が3軒の小さな島だ。
今回は、大峰荘という民宿にお世話になった。
磯釣りのポイントは、島南端の出瀬、東側の徳之瀬があり、クエ、ガーラを狙えるが、渡船でしか行けない。
堤防は南之浜港(はえのはま)と東之浜港がある。 南之浜港の先端は潮の流れが速く、東側への流れが良い潮で、梅雨時にトビ魚の大群が港に入る確率が高いとのことを民宿のご主人に教えていただいた。
今回は東寄りの風が強かったことから、南之浜港で竿を出した。 高堤防先端に出たかったが、海面まで約8mと高く、持っているギャフが届かない、強風、豪雨、他の釣り人がいない、など障害が多いことから、車の乗り入れが可能な低い方の堤防先端で竿を出した。
堤防には朽ち果てたアンカーが何本かあったが、新しいものはなく、コンクリートの継ぎ目に打ったハーケンも満足に効かなかったため、尻手ロープは車のフロントサスペンションに結び、磯バッグを竿枕にした。
6月12日、13日
平島に朝10時に到着、東京の家を出て22時間を要した。 1週間前に送った装備約60kgを荷ほどきして、午後から南之浜港に生きえさのムロアジ釣りに出かけた。
堤防の何箇所かで、アミコマセ・さびき釣りをしたが、小魚一匹掛からない。 その後、滞在中は朝夕、場所を変えてムロアジ釣りをしたが、全く釣れず、泳がせ釣りはあきらめることにした。
トビ魚が港に入る時は、死んだトビ魚で十分、民宿のご主人から前日、刺網で捕った新鮮なトビ魚を必要なだけ使っていいと言っていただいていたので、えさの心配はなかった。
リールはフリーにして、鳴きバネを入れ、浮き下2ヒロのトビ魚一匹掛けの浮き釣り。
トビ魚は表層を泳いで、ガーラや磯マグロが後に付いているので、浮き下は短い方がいいと民宿のご主人に教えていただいた。
夕食後、いよいよ本格的に釣りを開始したが、満潮の午後12時を過ぎてもトビ魚の姿は見えない。 トビ魚掬いに来ていた地元の人に聞いたら、「今晩はこねーな」と言って帰って行ったので、実釣り予定8日間の初日ということもあり、民宿に戻ってしまった。
民宿に戻ってすぐ、大鵬さんから電話をいただき、「これからがいいのに」と言われたが、そのまま寝てしまった。
明け方、南之浜港に行くと、民宿のご主人が来て、「昨夜、発電所点検の仕事後、1時過ぎに様子を見に行ったら、トビ魚の大群が入ってきて、ガーラや磯マグロがバッシャン、バッシャン追い回していたよ。 起こそうかと思ったけど、初日だから寝かせておいてあげた。」 だって。
エエー!! やっぱり大鵬さんの言うとおり、甘かった。 後悔が残る初日となった。
6月13日、14日
二日目は初日に学んだ失敗から体を夜勤モードに切り替えるため、日中、十分な睡眠を取って夕食後、南乃浜港に向かった。
初日よりさらに風が強かったが、午後10時過ぎ頃からトビ魚が飛ぶ姿が見え、港の奥でトビ掬いの人が堤防の上に掬ったトビ魚を大量に撒き散らしている。
トビ魚が飛びはじめ、しばらくして強風の中、スクーターの後ろにケミホタルが光る穂先の竿を立てた人が高堤防の先端に出て行った。
30分ほどして「すみませーん」という声に気付くと、高堤防先端で掛けた魚を低い方にいる私にギャフ掛けしてくれと言っているようだ。
今回持参したフライングギャフは初めて使うので少し不安だったが、無責任なことに人の魚なので、気楽にできたのが良かったのか、短時間で引き上げることができた。 引き上げた魚は1mを超えるアオチビキで、十数キロといったところだった。
釣った本人は「どーもー」と一言礼を言ってスクーターのステップに魚を乗せ、帰って行った。 なんと要領がいいこと。
しばらくして私の竿にも待望のアタリが。 鳴きバネが鳴り、糸が勢い良く出たが針掛かりしない。 仕掛けを上げててみると素針になっている。
すぐにトビ魚を付け投入、約5分ぐらいで同じようなアタリが、今度は半分食い千切られている。 さらに約10分後にもアタリが。
トビ魚掬いの人がつけるライトで海面には時々、トビ魚が飛ぶのが見える。 暗闇の中、バシャン、バシャンと大物の捕食音も聞こえる。
4回目のアタリで、フリーにしているリールの鳴きバネは止まることなく、凄まじい勢いで糸が出ていく。 心臓の鼓動が高鳴る。 落ち着け、早あわせをするな、と自分に言い聞かせた。
竿を持ち、ギンバルに竿尻を当ててドラッグハンドルをいっぱいに戻した状態で、レバーをオンにした。 ドラッグミニマムの状態でテンションを約2kgに調整しているが、糸の出る勢いは変わらない。
穂先のケミホタルを見ると魚は港の出口方向に向かっている。
ハンドルを少し巻いて、竿を立てていられるギリギリまでドラッグを締めた。 糸の出方は少なくなったがジリジリ出続けて止まらない。
リールの糸巻き量が半分ぐらいになったようなので、ドラッグをさらに締めた途端、再び強烈な引きで、やむなくドラッグを緩めると、またしてもどんどん糸が出ていく。
全体重をかけて持ちこたえてしばらくしたところで動きは止まった。 リールを見ると糸の残りは1/4程度になっている。
ポンピングで巻き取れるようになったが重いのでなかなか寄らない。
残り100m位になった時、急に軽くなった。 ばれたか。 懸命にリールを巻くと、やがてテンションが回復、魚が向きを変え、港の奥の方に向かっている。
魚の力もかなり弱っているようだ。 懸命にリールを巻く。
ようやく10mぐらいの所でヘッドランプで浮いた魚体を確認。 デカイ!! ガーラだー!!
足元まで寄せてもほとんど抵抗はない。
震える手でギャフを取る。 竿とギャフの両持ちで掛けようとしたが、魚がフラフラ、竿が立ちすぎて穂先がいやな曲がり方をしている。
竿を磯バッグを竿枕にして、道糸にテンションを張ったが、波の高低差で、道糸が緩む。
針が外れないか心配したが、見るとガーラは15cmほどの根付が見えないぐらい飲み込んでいる。
ギャフで道糸を引き寄せ、左手に持って右手でギャフ掛け。 波の高低差で持った道糸が引き波で引かれ、危なかったが、なんとかガーラの腹にギャフを打ち込めた。
一時間程前のギャフ掛けリハーサルが役に立った。
これで捕れた、と思ったが、引き上げようにも左腕がしびれて力が入らない。 深呼吸をして再度チャレンジするも水面からも上がらない。
民宿のご主人には一人で大物が掛かったら、「夜中でもいいから電話しなさい。」と言われていた。
いよいよヘルプの電話を掛けようと思っていたところに、地元のトビ魚掬いの人が様子を見に来て、幸運にも引き上げを手伝っていただいた。
釣行計画時の妄想が現実となった瞬間だった。
朝、民宿のご主人立会いで、計量した結果、135cm, 35kgだった。
ビギナーズラック、初の本格遠征の一匹目にしては大きすぎると内心贅沢なことを考えてしまった。
魚拓を取りたいと民宿のご主人に言うと、「20日までには、もっと大きいの絶対釣れるからこれぐらいは魚拓いらないよ。」と言われ、納得してしまった。
ご主人の「魚拓いらないよ」の根拠は平島では、写真のように一晩で40kg、50kgクラスのガーラ2本がロープ釣りで捕れてしまう実績からのようだ。
釣り上げたガーラはその朝、解体・燻製にして一部を手土産にいただいた。 ガーラの燻製は鶏肉の燻製のようで、ビールのおつまみに良く合う珍味だ。
6月14日、15日
低気圧接近で豪雨、強風の中、昨日と同じ場所で竿を出した。
荒天で地元の人は誰一人いない。 沖縄から来た釣り人が一人、ルアーを投げているが、強風でうまくいかないようだ。
ヘッドランプを点けると時々トビ魚が飛んでいるのが見える。
今夜も期待できるかと待つが、あまりの強風と豪雨で立っていられない。 運転席に座っていても時々ゴーという風音で車が大きく揺れる。
気が付くと沖縄から来た釣り人も帰ったようだ。
2時過ぎ、わずかに開けた窓ガラスの間から、断続的な鳴きバネの音が聞こえた。 豪雨の中、外に出たがその後、鳴きバネは鳴らず、仕掛けを上げてみるとトビ魚に歯形が付いて、針掛かりしなかった。
やがて、夜が明けて、港内を眺めると雨の泥水で褐色に濁りが広がっていた。
午前7時前、片付けて民宿に戻る。
朝食後、民宿のご主人から、「台風接近で帰りの20日の船はほぼ確実に欠航になる。 一便前の17日の鹿児島行きの船も台風のうねりで平島は接岸できない可能性がある。
平島は港が南に向いているので、他の島より接岸できないことが多い。 24日までいられないなら明日、16日朝の奄美大島行きの船で帰った方が安全ですよ。」と忠告いただいた。
仕事で鹿児島から来ている人も奄美大島行きの船で帰ると言っている。
実釣り3日でやむなく帰る決心をしたが、2日目に釣果に恵まれたこともあり、心残りはなかった。
難しいとは思うが、今回の記録を更新して魚拓を取るために来年も平島で再チャレンジしたい。
今年トカラは台風が6月初旬に1個、中旬に1個、下旬にも1個通過しそうだ。
梅雨時期、トカラ列島は梅雨前線が南北に行き来して次々に低気圧が発生、強風と豪雨、6月の降雨量は東京の4倍の約600mm、なかなか良い天候での釣りは期待できない。
初めての本格遠征で、釣果に恵まれたのも、昨年末、超魚会に入会させていただき、うつぼ伍長さん、大鵬さんに的確なアドヴァイスを頂けた賜物と感謝している。
今回の初遠征は、秋に予定している与那国遠征の良い練習になった。
私のスキルと体力では、単独磯泊まりでの遠征はまだ無理との結論に至った。